MADのアート・フェローである塚本隆大が企画とキュレーション(共同キュレーターとして、アーティストの齋藤帆奈、石橋友也)を務める展示『metaPhorest Biome 生物学実験室におけるアートの生態系』が開催中です。会場は、東京都新宿区百人町にあるオルタナティブスペース「WHITEHOUSE」、開催期間は2024年7月6日(土)から7月28日(日)(金土日のみ開廊)。
 いわゆるバイオメディア・アートの、国内を代表するプラットフォーム「metaPhorest」のメンバーが集まり、人間とそれ以外の生きものたちとの関係性をテーマとする、様々な作品を出展しています。

人間と他種の生き物の関係性

塚本隆大・文

 近年、科学や人文学などの様々な分野において、人間とそれ以外の生きものたちとの関係を、根幹から見直すような動きが起きています。科学史研究者のダナ・ハラウェイや人類学者のステファン・ヘルムライヒらの考えに従えば、こうした動きのきっかけとなったのは、近年の生物学的な発見です(※1)。まず、我々人間の各器官の活動が、そこに存在する様々な微生物たちの生活や、その中における相互作用に支えられていることが分かってきたといいます。また、遺伝子の伝達に関して、新たな見方が提起されます。これまで、遺伝子は、同種の親から子へと受け継がれていく、垂直方向の伝達のみが想定されていました。しかし、一部のウィルスや微生物は、種の垣根を越えて、異なる生きものへと、即ち、水平方向へと遺伝物質を伝えていたというのです。ここで重要となるのは、我々の生命活動が、意識できないレベルで、他の生きものとの関係の中に存在しているということ、そして、これまでに考えていたよりも、種という存在が曖昧であるということです。

マルチ・スピーシーズ研究と呼ばれるような潮流に属する研究者たちは、このような微生物や遺伝子レベルの発見を、植物や動物といった、より大きなスケールまで拡大することを試みます。例えば、人間の活動が、微生物との関係の中で維持され、存在しているという考えを拡大化すれば、全ての生きものの活動は、常に他の生きものの活動との関係の中に存在していると言えるはずです。そして、ウィルスや微生物が、水平方向に遺伝子を伝達するとすれば、そうした存在にとの関係によって、自身の生命活動を支えられている人間や動物、植物も、種の垣根を超えた繋がりの世界をベースに生きているといえます。更に、以上のような世界観では、近代的な人間中心主義が根本から覆されることになります。
 近代の人間中心的な世界観では、動物や植物などの他種の存在は、人間によって分析、支配される受動的な存在でした。しかし、これまでに見てきたような、マルチ・スピーシーズ的な世界では、人間とその他の生きものたちは、遺伝的なレベルでも、その活動のレベルでも、互いに影響し合い、混淆した存在です。その為、両者の間には、片方がもう片方を一方的に支配する、あるいは、一方的に影響を与えるといった関係性は存在しません。こうした前提の中で、従来の人間中心主義の視点からでは捉えられてこなかった、動物や植物、微生物らの能力やその影響力が詳しく研究されるようになりました。
 これらの動きは、気候変動に代表されるような環境保護活動などと響き合いながら、大きな社会運動の一部となっています。この中でアートは、研究者やアーティスト、その鑑賞者たちが交流し、共に考察を深める為のツールとして、社会的に大きな役割を果たしています。
 本展示『metaPhorest Biome 生物学実験室におけるアートの生態系』においても、こうした流れと応答するような作品たちを見ることができます。

※1以下の意味段落はS. E. カークセイ & S. ヘルムライヒ 2017「複数種の民族誌の創発」近藤祉秋訳『現代思想』45 (4):96-127.原著はKirksey, S. E. & Helmreich, S. 2010 “THE EMERGENCE OF MULTISPECIES ETHNOGRAPHY”CULTURAL ANTHROPOLOGY.25(4):545-576を参照。



【展示情報詳細】

metaPhorest Biome

生物学実験室におけるアートの生態系

開催日時

2024年7月6日(土)〜7月28日(日)※金土日のみ開廊

金  16:00~20:00
土日 14:00~20:00

場所

WHITEHOUSE

東京都新宿区百人町1-1-8

入場料 500円

参加作家

AKI INOMATA、Anais-karenin、BCL/Georg Tremmel、Henry Tan、飯沢 未央、石橋 友也、岩崎 秀雄、植村 和俊、切江 志龍、齋藤 帆奈、杉浦 真也、藤岡 慧、松村 寛季

主催

metaPhorest(早稲田大学生命美学プラットフォーム)

キュレーション

塚本 隆大(企画)、齋藤 帆奈、石橋 友也

協賛

科学研究費補助金 基盤研究(B)「モアザンヒューマンの美学――動物論的転回以降の感性論的可能性」