(以下の記事はHUFFPOSTからの抜粋です。)
第8回のテーマは「ソーシャルアントレプレナーの資金の形」。READYFOR株式会社 代表取締役CEO 米良はるかさんと、一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)常務理事 / 事業部長 工藤七子さんと共に、ソーシャルグッドなビジネスを進めていくなか、どのようにお金を集めればいいのかなどをテーマにトークセッションを行いました。
経済活動の“中”で社会課題を解決する
インパクト投資、という言葉を聞いたことはありますか?
SIIFの工藤さんによると「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資」のこと。つまり、事業の成長(利益)と同時に、社会課題も解決するための投資のことで、近年注目を集めています。工藤さんはその第一線で活動してきました。
「私たちが活動を始めた10年ほど前は、日本ではインパクト投資はほとんど行われていませんでした。インパクトスタートアップやインパクトファンドに対して投資をすることで、少しずつ認知を広げてきました。もっともっとこの投資形態を当たり前にしていきたいので、現在は他のプレーヤーのバックアップや、市場環境の整備、リサーチ、そしてアドボカシー(社会課題について当事者の代弁をしたり、権利を擁護したりすること)といった取り組みも実施しています」
元々は学生時代から途上国の支援をしたいと思っていた工藤さん。大学卒業後は商社に入り、投資業務を担当していました。そこで直面したのは、金融業界のダイナミズムでした。
「当時は不動産市場が隆盛していて、ロンドンのオフィスビルに投資をして何もせずとも1年後に売却すると数十億の利益がでるような時代でした。何のバリューアップもしてないのに、どうして不動産価格がこんなに上がっていくのだろうと疑問に感じて。途上国に行って飢える子どもたちを直接サポートしたいけれど、その前にこういった大きな市場の仕組みを変えなければいけないと思ったのが、私の原体験です」
その後、リーマンショックの影響で金融資本主義に対する倫理的な揺り戻しが起った時期に生まれたのがまさに「インパクト投資」でした。
「自分が携わってきた投資という領域と、社会課題解決が交差する」と感じた工藤さんは、当時インパクト投資が特に注目を集めていたアメリカの大学院で研究をスタート。帰国後、日本財団で立ち上げた「社会的投資推進室」を独立させる形で、一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)を立ち上げました。
SIIFが掲げるのは「社会の課題解決に、新しい経済で挑む」という言葉。昨今政府が打ち出している“新しい資本主義”とも重なります。これまで、既存の資本主義は社会課題の解決と両極に位置するものとされてきましたが、SIIFが目指すのは、経済活動の中で社会課題を解決していくことです。
現在、直接投資だけでなくファンドを通じての投資、休眠預金活用法に基づいた投資や助成など、さまざまな方法でインパクト投資を行っています。そのすべてを合わせると、投資先は42、3団体にものぼるそう。
「従来は、投資家がビジョンを持つことはあまり多くはありませんでした。何の課題を解決したいのか、どういう世界を目指したいのかという“意図”を明確にすることが、インパクト投資においては重要なポイント」と語る工藤さん。しかし、インパクトスタートアップへの投資はまだまだ少ないのが現状です。
「10年で4倍の成長が見込める事業は、リスクがあったとしても投資されやすい。一方で、社会的意義(インパクト)は大きいけれど、収益化に長い時間がかかる事業もある」なかで、いかにインパクト投資を増やしていけるのか。その鍵は、起業家と投資家がともに強いビジョンを持つことにあるのです。
ソーシャルビジネスとお金のはなし
ソーシャルビジネスを始める際にハードルとなるのが資金調達です。インパクトスタートアップやNPOにとって、「自分がやりたい事業には、どういう調達手段がマッチするのかを考えることが非常に重要」と語るのは、2011年に日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を立ち上げ、READYFOR株式会社を経営する米良はるかさん。
「インパクトスタートアップやNPOなどの社会課題解決を目指す事業は成果が出るまでに時間がかかることが多いです。株式資本を元にした資金調達だと、短期間でIPOを求められるなどなじまないケースもあります。」
「READYFOR」では、数々の社会課題解決の活動をサポートしてきました。
「融資や投資のような短期的なリターンが見込めるものにしかお金が行き渡らない構造に疑問を感じていました。社会課題解決のような時間はかかるけれど、多くの人たちにとって重要なものが実現する、あるいは多くの人がもっと挑戦できるような環境を作りたいと思ったんです」
クラウドファンディングは取り組みの可能性を広げるのに有効なツールです。しかし、より大きなお金の流れを作っていくためにはそれ以外の手段も必要になります。
「クラウドファンディングで集められる金額は、1プロジェクトあたり大体100万〜200万円ほど。その金額も十分高額ですが、例えば研究開発のような取り組みでは、より大きな金額が必要になります」
特に環境、医療など、長期ではリターンが返ってくるものの非常にボラティリティ(価格変動)が大きい領域は、資金調達が難しい分野だといいます。そこでREADYFORでは、遺贈寄付サポート窓口の設置や休眠預金等活用事業、NPOへの助成活動など、幅広い形での支援が行われています。
加えて工藤さんは、ビジネスモデルと資金調達は分けて考えるべき、と指摘。
「どのようなビジネスモデルで、何でキャッシュポイントを作っていくのかと、資金調達の話を混ぜて考えてしまう方が少なくありません。例えば、日本でも大きな規模になっているNPOでは毎年2桁億円の寄付を集め続けています。これはある種の売上に近く、キャッシュフローをしっかり回すことができているわけですね」
多くの場合、助成金や補助金は最長でも3年ほどが受給期間。クラウドファンディングも一時的な資金です。したがって、助成金・補助金やクラウドファンディングは、グッとアクセルを踏みたいときに使うのが良いと工藤さんは続けます。
自分たちの経営を守りながら、どのように自社以外の資本を入れるのか。方法が多様になっている今、ひとつの方法に固執しない柔軟さが必要と言えるでしょう。
「自分たちだけが勝てばいい」世界を変えていく
社会課題解決と経済成長のどちらも実現できるインパクトスタートアップがより多く生まれるよう、READYFORやユニファ、ライフイズテックなどの企業が集まり、立ち上げたのが、一般社団法人インパクトスタートアップ協会です。
「既存の資本主義は利益追求が中心。それ自体は悪だと思いませんが、そこから得たお金や資本をどのように社会に還元していくのかという設計が必要です。お金を得るためだけに成長するだけではなく、社会にとってどういう影響を与えるかということも考えられる起業家や企業が増えると世の中がもっと良くなるし、“新しい資本主義”が作られると思っています」
記事全文はHUFFPOSTでご覧いただけます。
「自分だけが勝てばいい」社会を変えていく。新しい資本主義のためのお金の流れとは?
ゲスト:
米良 はるか(READYFOR株式会社 代表取締役CEO)
工藤 七子(一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)常務理事 / 事業部長)
モデレーター:
大畑 慎治(Makaira Art&Design 代表 )